日本画部門

内田 あぐり

日本画家・武蔵野美術大学名誉教授

 応募点数62点の作品を最初に拝見しました。全体の印象は様々な作品があり、面白いなと感じました。中でも特に目に飛び込んできたのは《海底》、《生まれるひ》、《白の夢の滝》、《おいで》、《花器のバラ》などで、それぞれが自分の世界観をしっかりと持ち、日本画の絵具や画材などを大切に使い、自分なりに工夫をする表現となっていることに好感を持ちました。
 奨励賞の廣瀬芽依さんの《生まれるひ》は、子供のフォルムがとても魅力的です。キャベツという自然の世界に囲まれて、発想が初々しいですね。日本画絵具の発色も美しく、センスが光っています。同じく奨励賞の長田麻友子さんの《花器のバラ》は、古典的技法による朱色の線描とたらし込み、彫塗りで描かれたバラの表現が斬新です。余白とも言える空間に垣間見える金泥や花瓶の下の海のような空のような空間も素敵です。
 若い方たちにもこれから積極的に作品を出品していただきたいなと思いました。

野地 耕一郎

泉屋博古館東京館長

 ぎふ美術展賞を射止めた上田雅利さんの《海底》は、重層的イメージを複雑な手法でまとめ上げた労作。時によって移ろい消え果ててゆく像を、画面に多数の切込を入れることで消えることのない歴史的結界を想わせるところに創意がある。
 優秀賞となった申林さんの《白の夢の滝》は、幻想の手触りのようなものが魅力になっている。自然の中で輪転する生命観から立ちのぼる香気も感じられた。稲葉沙恵さんの《夏の日》は、揺らぐような影の表現の巧みさが個別な記憶を普遍性にまで高めている。二作とも現代の高速コミュニケーションから漏れるものを掬い取ろうとする柔軟な感触が、観る者との生き生きとした関係を生みだす喚起力をもっている。
 奨励賞となった山田玲子さんの《装いの湿地》と田中まさこさんの《おいで》。いずれも生が往還する場として目には見えない陰の世界に妙にひかれた。廣瀬芽依さん《生まれるひ》、長田麻友子さん《花器のバラ》の透明感のある筆致は気まぐれでできるものではない。発砲スチロールに描かれた湯之下正純さんの《風木霊》にも驚いた。現代絵画のキャパシティーを少し押し広げてくれる仕事だと思う。

洋画部門

高橋 秀治

豊田市美術館館長

 200点を超える応募作から入選作を半数以下に抑えなければならないことは、それぞれが作者の思いのこもった作品ばかりで、なかなか厳しい選択を迫られました。そのような中で、ぎふ美術展賞に選出されたのは、林直樹さんの《atelier》です。これは室内風景を描きながら、単なる写生ではなく、それ自体が作者の息遣いが感じられる自画像ともいえる空気感と内からの光を宿した作品となっていました。
 優秀賞鈴木孝治さんの《モメンタンⅡ》は画面の構成力が発揮された作品です。赤い地と二つの暗い人体は力強く、作品の存在感を高めています。もう一点の優秀賞河村正子さんの《笛吹く妖精たち》は版画作品ながらタブローの作品に負けない強い力を感じさせています。これら以外にも賞候補とは大差なく見るものに語りかけ、訴えかけてくる作品を多く見られたのは、審査員としておおいに考えさせられました。

馬越 陽子

洋画家・日本芸術院会員

 熱意のこもった応募作品群はまさに現代の画壇の縮図のよう。具象・半具象・抽象・心象風景・イラスト風・マンガ調等の多様な作品に心を奪われた。
 制作する事は自己の心を解放し、想いを画面に発散することで勇気を与える。その中で率直に自己の魂を解放するまで昇華し得た作品に心を打たれた。ぎふ美術展賞の林直樹氏の《atelier》はそのような作品でした。画面の奥から語りかける声は技巧を超えたものがある。正面から自分と対峙した色彩を抑えた祈りともいえる静寂の空間の表現があった。
 文学に於いては憎むべきもの、悪をも書くことが出来るが、絵画は自分が愛し信じ善なるものしか描けない。これは平和のあかしではないでしょうか。この豊かな山河と清らかな空気の中、培われた心眼に根ざした想像力をどこまでも羽ばたかせる事こそ表現者の使命といえましょう。

彫刻部門

楠元 香代子

彫刻家・鹿児島市立美術館館長

 彫刻表現とは何かと難しい問いを自分自身に向けてみた。寄せられた多様な作品の中から優秀作品を選ぶ規範となる自分自身の物差しは何か?私にとって彫刻とは、空間の中に確固として存在する形態の表出であり、石や木、金属、あるいは粘土などの素材を使って表現する従来の彫刻の概念の中で生きてきました。しかし今日では素材の多様化とともに彫刻の概念も広がり、物差しを刷新する努力も続けています。今回入選に至らなかった作品の中には、彫刻表現というものについての考え方が違うものも見受けられましたが、全体的にまとまりの良い作品が多く、立体表現に熟達した技術を感じられる作品もありました。一方、もっと挑戦的な作品に出会いたいとも感じました。
 受賞作品には、発想力、技術力、完成度、美しさ、訴求力などを考慮してバランスの良い作品が決まったと思います。
 出品された皆様に感謝し、更なる傑作に出会えることを期待しております。

林 武史

彫刻家・東京藝術大学名誉教授

 今回は応募総数29点の中から入選作品22点を選びました。ぎふ美術展賞《と玄牝》はすずの鋳造で造り出された女性の身体が、アクリルケースの中につるされた状態で提示されています。コンクリートベースとの絶妙なバランスが彫刻のクオリティーの高さを物語り作者の想いと重なった秀作になっています。優秀賞《海のかたち》は薄い鉄板を溶断トーチで丹念に熱し切り込みを入れ、波や海面の光を表現した鉄でありながら軽やかな力作になっています。もう一点は《舞いあがれ》。簡易素材で作られた木の台座の上部の中心に、白大理石の水滴のようなオブジェがあり、それを覆うように金属のメッシュがかけられています。空間に軽やかに存在する彫刻になりました。他にもブロンズの《身近になった月》、垂直に立ち並ぶ《construction3・3・3》や、プラスチックの廃材を巧みに組み合わせた《地球ダメージ85》などはそれぞれ作品意図、構成力や技術が作品と噛み合った作品になっていました。
 ここに取り上げた作品以外にも素材、テーマ、意欲的な試みが随所に感じられました。個々の作品が生き生きと存在しているのを感じ、質の高さを確認できました。彫刻の力が光、空間と大きく関係する場に立ち会えて良かったです。

工芸部門

内田 篤呉

MOA美術館館長

 第5回ぎふ美術展工芸部門は、応募作品94点、そのうち入選32点、受賞作品6点を選考した。本展の出品作品は実用性を重視する伝統工芸、芸術的表現を追求する工芸美術があり、さらに陶芸、染織、人形、ガラス、紙などのジャンル別もあり、難しい審査であった。審査に当たっては素材と技術の特質を活かした作品で、さらに造形性、デッサン力、新規性等を加味した。
 ぎふ美術展賞の馬渕規子《積み木》は工芸の特質の枠を超えた華やかでポップな表現を評価した。優秀賞の鬼頭里美《無題》は型鋳込みの陶板で、グリーンとコバルト・ブルーが混じり合った美しい釉薬、陶板25枚のインスタレーションも迫力があった。同賞の酒井紫羊《山帰来紋大皿》は白磁に鉄絵と釉裏紅の技術と文様の完成度の高さを評価した。奨励賞の貝塚惇観《wanna be spinner》は羊毛の素材と陶芸を組み合わせた造形性を、馬場澄子《手描きレペル更紗絵「友人からのバラ」》は細密な手描き更紗の表現力、加藤敏一《宇宙大爆発》は有線と無線七宝による創造性をそれぞれ評価した。
 本展は、岐阜県民の美術工芸に対する意識と作品レベルの高さを実感した審査であった。

森口

染織家・重要無形文化財「友禅」保持者

 はじめて岐阜に来るのに新幹線の工事車輌の事故のため、京都から米原、大垣経由の在来線でゆっくり景色の変化を楽しみながらの旅でした。大収穫だったと思う。梅雨明け直後の強烈な日ざしの中、青々とした稲田の中を岐阜に入った。その輝く明るさと言おうか、活々とした感覚を、翌朝の第5回ぎふ美術展の作品群にも発見できたことは何とラッキーなことか。
 工芸部門のもう一人の審査員の内田先生とは、日本伝統工芸展でたびたびご一緒のこともあり、心地よいリズムで審査会を終えることができたと思う。
 当部門のぎふ美術展賞は、伝統的なキルトの作風を残しながら、私が昨日から感じている県民性か、あるいは風土性か、思い切り明るい表情の作品となった。誠実ながら伸びのびとした表現は、観る人々を引きこんで止まないだろう。

書部門

島谷 弘幸

皇居三の丸尚蔵館館長

 各書体においても多様な表現がなされており、ぎふ美術展が魅力溢れるものとなっている。書は線質と造形が重要であるが、さらに全体の調和が求められる。
 よく書は読めない、また鑑賞の仕方がわからない、という方々が多いが、まずは全体の雰囲気を見て、好きな作品を鑑賞してほしい。そして、墨の潤渇や行の流れ、墨色を鑑賞することをお薦めしたい。
 その後に、何が書かれているかに関心を持ってほしい。というのは、書家は何を書くのかがとても大きなテーマなのである。
 作品のすべてを鑑賞した上で、自分の好きな作品を一点、多くても三点を選んで、じっくり鑑賞してはいかがでしょう。自分の好みも分かり、深い鑑賞が出来ます。

土橋 靖子

書家・日本芸術院会員

 今年の書の「ぎふ美術展賞」受賞作品は、鍛え抜かれた線と洗練された結体、また紙とマッチした余白の美しさなど、仮名の美が遺憾無く発揮された傑作でした。
 全体としても、多様な表現内容の作品が集まり、真摯で鍛錬された力作が多く、書に正面から向き合っている出品者の皆様の姿が作品を通して伝わり、緊張感あふれる審査となりました。
 この美術展の特徴として感じたことは、全体のレベルの高さと、古典古筆を礎とした格調の高さ、さらに年齢層の広さです。年齢差や作者の背景を超えて一堂に審査するというのはむずかしい一面もありますが、それゆえに真に心を打つ作品とは何かを考え、見定める鑑別となったと思います。
 それは、言い換えれば書の本質、最も大切なものを見つけることでもあります。技術に加え、さらに精神の高さ、紙に向かう心の清さが大切と痛感しました。  皆さんの益々のご健筆をお祈りしています。

写真部門

鳥原 学

写真評論家

 バラエティに富んだ今回の応募作品は、写真を見慣れた私にも新鮮な驚きを与えてくれました。その中から選ばれたのは、何度も頭の中で“反芻”してしまう作品です。造形的なリズムが楽しく、解けない謎を与えてくれます。
 いまやカメラはより高精度になり、精細な写真が誰にでも撮れるようになりました。ただし、真に驚きを与えるのは珍しい被写体を珍しく撮ったものではなく、人間らしい眼差しと思慮深さ、そして造形的センスを感じさせる作品です。
 和紙作りの伝承を捉えたぎふ美術展賞《見守る》の、一つのイメージを四つに分割して見せている工夫、開発の模様を描写した優秀賞《表裏一体》のキュビズムを思わせる画面構成、奨励賞《空き椅子》の静かなたたずまい。奨励賞《帰り道》の端に写る少女の大きな口も忘れられません。これらはすべて人間の眼差しの豊かさを示しているように思えたのです。

野口 里佳

写真家

 応募作品の中でも特にプリント作品に質の高いものが多くあったように思います。プリント作品の場合は写真の内容だけでなく、その写真をどうやって見せるかも重要になってきます。どの大きさにプリントし、どんな額装にするかまでをよく考え、さらに新しい挑戦をしようとしていると感じた作品をぎふ美術展賞に選ばせていただきました。優秀賞の2つの作品は額装の方法も含め完成度が高く、今までどんな作品を作られてきたのかとても気になりました。奨励賞の《窓》と《過ぎ去りし人》も写真の本質に迫る力強い作品だと思います。
 データ作品はモニターのサイズや質によって作品が左右されるため、大きなプリントで見たら良く見えるのだろうな、ともったいなく感じる作品もありました。データで応募する場合には並び順を考え抜くなど、モニターで見ることの良さを感じさせる作品を作る必要があると感じました。
 今後ますますぎふ美術展に魅力のある作品が集まってくることを期待しています。

自由表現部門

榎本 了壱

クリエイティブ・ディレクター・大正大学教授

 自由表現部門というのは、従来のアートのカテゴリーではくくれない、あるいは部門をまたいだり、重複したり、はみ出したりした、表現領域のものと解釈してよいと思います。ここに登場した作品群は、イラストレーションや、アニメーション、オブジェ、インスタレーションといったものが多く、すでに一般的に認知されている表現なので、必ずしも新奇なものとはいえないでしょう。
 今後期待したいのは、表現や、素材がクロスオーヴァーする、ミクストメディア的なものになるでしょう。さらには、AI等のテクノロジーが加わったさらなる表現領域を引き受ける部門となるはずです。あらたなアートの領域を切り開く可能性を秘めたものとして、期待をもって審査に臨みました。これからという印象でしたが、アートはここから間違いなく拡張するはずです。

野村 佐紀子

写真家

 ぎふ美術展賞作品は寺田優芽さんの《風景》です。この作品は、何か気になり目が離せなくなり、そしてじわじわと寺田さんの世界が広がっていきました。透明感がありしなやかで、鑑賞者によってどんな風景にもなるという、とても大きな作品です。最初に聞こえたこの作品の小さな声が大きな風景に導いてくれました。
 優秀賞、和みの竹華炭 栗田さんの作品《秋の炭渓谷》は、自然植物を乾燥して炭にした作品です。炭ということで、見る側が集中力を持って細部から見ていくことになり、結果作品に引き込まれ見えてくる物語がクリアになっていきます。橋の上に並ぶ炭になった菱の実が、歓喜に溢れる人達に見えます。優秀賞、佐藤正己さんの《宇宙願望》は、大胆に繊細に描き上げており、佐藤さんの「地球を離れ宇宙へ向かう」気持ちが伝わりました。
 沢山の応募作品には根気よく丁寧に作られた作品も多く、特に最後まで集中力と熱意を持って仕上げた作品には感動しました。これからも「自由表現」部門がますます新しい世界を見せてくれる場所になりますように。

ページトップへ