日本画部門

木本 文平

碧南市藤井達吉現代美術館館長

日本画部門に応募された作品は、プリミティブな表現による作品もあれば、日本画独特な素材や技法に真摯に取り組んだ本格的な作品もあり、実にバラエティに富んだ内容でした。そして、それらの作品から強く印象に残ったのは、描くことに対する喜びや作者自身の率直な感動が直截に表現されていることでした。
なかでも、ぎふ美術展賞となった藤井星夏さんの「鰐」は、日本画の伝統的な素材である岩絵の具の特質を充分に活用した作品であり、モティーフ(題材)の持つ質感や量感、そして動く様までをも表現した力作でした。次に優秀賞の受賞となったのは佐藤正子さんと青藍蒼さんの作品で、佐藤さんの「full bloom」は、色彩表現の豊かさと見る者をファンタジーの世界に誘引する魅力がありました。また、青藍さんの「message in a bottle」は、写実と抽象を巧みに組み合わせた作品で、優れたデザイン感覚を感じさせられました。この他、奨励賞を受賞された伊藤睦美さん、長谷部やよいさん、浅井新太さん、古川幸代さんらの作品も新鮮な感動が真摯に伝わってくるものでした。最後に、受賞者や応募された方々の益々の研鑽とご活躍を期待いたします。

那波多目 功一

日本画家、日本芸術院会員

今回のぎふ美術展賞は色調、構図、表現力ともすばらしく、文句なしの秀作です。この作品の色調は一つ間違うと暗く沈んで勢いのない作品になりがちですが、高度な技術力で見事に表現しております。
優秀賞の佐藤正子さんの作品は、よくここまで思い切って消せるものだと感心して拝見しました。白い夢の世界を高い感覚で表現されているすばらしい才能を感じました。青藍蒼さんの作品は砂浜を造形的にとらえているところが非常に面白いと思いました。
奨励賞では、「雨やどり」は雨の描き方に一工夫欲しいですね。細かったり太かったり、長かったり短かかったり、しっかり写生をすればすぐ解決します。自然はもっと自然ですばらしいです。「富貴」は花のやさしさ、花の命のはかなさが良く表現されていて好感がもてました。「月に想う」は夢をこよなく感じ観るに、夢の世界へといざなう不思議な魅力を感じました。
賞にはなりませんでしたが、「そよ風」は花の色がもっと白に近い色だったら爽やかな感じが出たと思います。「山車」は山の形と群青の色がせっかく上手に表現されている山車の良さを消してしまっています。惜しい作品です。「刻の花」は構図、色調は申し分ないのですが、花の硬さが気になりました。夢の中の花が描いてあればよかったと思いました。

洋画部門

池口 史子

洋画家、日本芸術院会員

審査会場に入った途端、質の高い展覧会と思った。甲乙つけ難い作品が並んでいる。入選作を決めるにも何往復をし、それから賞候補に入るとなおさら悩む。
ただ質は高いが、ずば抜けた個性に出会わない。賞候補として10数点並べてみて結局7点に絞る。最終的に手慣れた作品「穏やかな空間」をぎふ美術展賞に決めた。オーソドックスな作品だが自然な美意識が漂う。
今、はやりの奇をてらった作品は少なかったが気持ちの良い結果が出たと思う。賞に漏れたが、差をつけ難い作品が並んだ会場を後にして少し心が痛む。

奥谷 博

洋画家、日本芸術院会員

審査をするということは、言い換えればこちらも審査をされるということであり、襟を正して審査に当たりました。平均的レベルで、ずば抜けた作品が見当たらないなと思いながら審査を進めましたが、最終的に賞の段階を見てみますと、高いレベルの作品揃いでした。
展示できる壁面を考え、極力省かないようにと考え、何回も作品を見て回りました。入選、落選は紙一重です。次回を期待いたします。
ぎふ美術展賞、小森啓子さんの作品「穏やかな空間」は、何を描きたいのか、何に興味を持ったのかを平凡な中より見る人に訴える力を感じる作品になっています。秀作です。
優秀賞、古田清光さんの「清流を求めて」は、形などの表現に独特な感じ方があり、貴方の個性というか、その辺りが大変惹かれるところです。
優秀賞、天野るみ子さんの「明日来る夢」は美しい作品になりました。いろいろな感情が画面を走り回っています。頑張ってください。

彫刻部門

黒川 弘毅

彫刻家、京武蔵野美術大学教授

応募作品には様々な材料と表現技法がみられ、審査では、それぞれの作品に豊かな制作キャリアを感じ、サイズの大小に関係なく「つぶぞろい」との印象を持ちました。選定では、作ることの楽しさを率直に感じさせる作品すべてを入選としました。それら一つ一つが、技法における専門的スキルの優劣を超えるかけがえのない魅力を持っていると私は感じます。第1回展よりも応募数が減少したにもかかわらず、彫刻部門では入選数が増加しました。今回、そのことが展示の活気になっていると思います。
ぎふ美術展賞を獲得した作品は、羊毛を用いてデリケートな手法で作られ、装飾性への新鮮な感覚を示すとともに、人間表現に向かう強い造形的意志が感じられました。優秀賞と奨励賞の作品には、かたちを作り出す技術的な手堅さとともに、作ることへの特別な欲望が感じられました。例えば、一木から彫り出すことへの、あるいは作曲家とその楽曲へのオブセッションのような。

籔内 佐斗司

彫刻家、東京藝術大学大学院教授

彫刻部門は、出品作品数が20数点と多くはありませんでしたが、テーマや材質、表現ともバラエティに富む作品群で、楽しく審査を進めることができました。それぞれの作品から、作者の作る素直な喜びが感じられて、甲乙をつけることが忍び難かったというのが正直な感想です。
ぎふ美術展賞となった「曳山 鳥辺山心中」は、羊毛という珍しい素材を用い、たしかな造形技術をもって不思議な世界観を表現しており、最初から目を引きました。「輪入道」は、非常にインパクトのある作品で、また「歩む」は、縄文時代の土偶を思わせるプリミティブな造形が魅力的でした。「ある場所、ある時間」は、静物画のような静謐な作品で、好感を持ちました。
今年の搬入会場の関係か、大きな作品が少なかったように思いましたが、作品の密度も完成度も高いものが多かったと思います。次回のさらなる発展が期待されます。

工芸部門

樋田 豊郎

東京都庭園美術館館長

工芸分野は、素材、技法、そして用途が千差万別なので、選ぶのに迷った。結局、いつも私が思っている「装飾する魂」がみなぎっている作品を選んだ。
それでいうと、ぎふ美術展賞の「越境する型」は、金属を叩いてつくる曲面が自由奔放で楽しかった。カヌーのようでもあり、ワニのようでもあり、創造の秘密を探るよろこびがあった。優秀賞の「型絵染 ひっそりと」は、桜の枝振りが浮遊しているようで不思議だった。花の散らし方も、全体が桃色のなかでわずかに使われている葉の緑色も効果的だった。
このほか、奨励賞の「威嚇」は、超絶技巧の風調に乗ってはいたが、自分の目で鳥のかわいらしさをとらえていてよかった。また、陶芸作品には伝統からオブジェまでがあって、岐阜県ならではだと思えた。

前田 昭博

陶芸家、重要無形文化財「白磁」保持者

工芸部門には、陶芸・染織・金工など様々な素材と技法による作品が、県内外から出品されていました。
80点の出品作の中から、素材の特徴をよく引き出し、思いと技で表現されているものを入選作とするように心掛けました。その中から、確かな技術に支えられ創作されたものを受賞作に決めていきました。
ぎふ美術展賞に輝いたのは、大きさもさる事ながら創造性と技術力において圧倒的な力量を見せた金工作品でした。鍛金という技法でこの大作に挑む覚悟と造形力は、並大抵の事ではなく、最高賞にふさわしいものでした。
優秀賞の「緑釉花器」は、ろくろで挽き上げられた形態と釉薬の色合いの美しさがバランスよく、経験に裏打ちされた力量を感じました。
同じく優秀賞の「型絵染 ひっそりと」は、花びらの配置と背景の淡い色彩から、しだれ桜の情景や空気感がよく伝わってくる作品でした。
奨励賞4点も素材や技法は異なるものの、それぞれに作者の思いが表れている作品でした。

書部門

島谷 弘幸

九州国立博物館長

大変にバラエティに富んだ出品作であったが、ことに漢字作品のレベルが高かった。
ぎふ美術展賞の篆刻作品は、印はもとより落款の入れ方も見事。他の入賞作品も、造形と線質、空間構成に優れており、今後の活躍が期待される。
今回は、古典を基盤とし、これに個性を加味した作品が入賞されている。この傾向は、伝統と創造のバランスが肝要の書の分野にとっては、とても大切である。今後も、この姿勢のもとで、書作がなされることを念願している。
最後に、小中学生と一般を一緒に審査することが困難であった。今後、これについては他分野と協議することも必要であろう。

髙木 聖雨

書家、大東文化大学教授

第2回ぎふ美術展の審査をさせていただき先ず感じたことは古典に準拠し、創意を参酌した作品が大半で、県の書道レベルの高さに驚かされた。特に行草書作品は王羲之書法に則り構成されており、安定感ある作品に仕上げられている。今後の課題としては縦作品で画一的になりすぎたもの(三行書)が多く見られ一考したい。
ぎふ美術展賞を受賞された波多野公一さんの篆刻作品「近作三種」は刻印の構成、刀の切れ味など見事。又、落款も書作品を見た思いがする。
選考に苦慮しながら実に楽しい一日であった。

写真部門

石田 哲朗

東京都写真美術館学芸員

アマチュアならではの素直な写真と、作品意識の高い写真の二つの傾向がありました。どちらのタイプでも、テクニック的なことよりも、型にはまらない独自性、作家自身の視点や世界観が見えるもの、そしてビジュアルとしての強さや魅力に重点を置いて選考しました。
写真は作者の外側にある、風景や出来事、事物、そして光と影との関わりの中で成立するものですが、作者自身の内側に確かなイメージや、求めるビジョンがあってこそ、作品に強さと魅力が加わるのだと思います。
選考では表現の多様性もまた生かしたいと考えました。自然の美しさや日常の瞬間を捉えたものから、人工的な美、構成的な作風まで幅広い写真の可能性がここにはあります。それぞれの作品を通して、時代性の反映も感じ取っていただければと思います。

小林 のりお

写真家、武蔵野美術大学教授

全体としては、旧態依然とした花鳥風月的表現や定型化した美意識に囚われた作品が多く、クリティカルに外部世界へと立ち向かって行くような独自性に富んだ作品が少なかったのが残念でした。
ぎふ美術展賞「感じる視線」は、ストリートスナップショットの緊張感に支えられて、刹那的な時空を鋭い感性とスリリングなフレーミングで鮮やかに切り取っています。優秀賞の「悠久の刻を経て」は、風景を地勢学的に解釈し、惑星探査機のごとく緻密で客観的な眼差しで捉えることに成功しています。同じく優秀賞の「the sculpture of sensuous wall」は、コンストラクテッド・フォトの手法を用いて虚構の空間を構築し、幻想的でシュールな物語を紡ぎ出しています。
私が選出した奨励賞「風船の旅」と「鼓動の共鳴」は、身に纏うアクセサリーのようにフランクに写真と接する新たな世代、時代の予兆を感じさせる作品で、技術的には未熟ながらもその可能性にエールを送る形となりました。時代を、他者を、自分自身を映し出す鏡、窓としての写真・・・。新たな挑戦に期待します。

自由表現部門

椹木 野衣

美術批評家、多摩美術大学教授

自由表現のぎふ美術展賞は今回、古田長利さんの「異空間」に決まった。不安定に立つサンドイッチのようにはさまれた空間ではなく、空隙に、驚くほど壮大な世界が広がっている。この世の終わりの姿のようでもある。しかしそれは少し身をかがめて覗き込まないと見えてこない。壮大さを覗き込むというこの体験のギャップが、本作の最大の魅力だろう。
優秀賞に選ばれた平瀬ミキさん「Translucent Objects」、渡邉正康さん「風の音色」は、映像と立体というように表現の手法こそ違えども、動きの工夫や音の扱いが巧みで、ついつい引き込まれてしまう。いずれも自由表現ならではの成果と言えそうだ。
ほかに奨励賞の桑原こども園ぞう組の「しなやか」は失敗を挽回する絵と物との対話のおかしみを、同じく奨励賞の青山裕史さん「個々」は怪獣を個性豊かな群像図として描いた力量を推したい。

島 敦彦

金沢21世紀美術館館長

思っていた以上に自由で、多彩な作品群に出会い、いささか戸惑いつつも、従来のジャンルにはない斬新な表現を意識的に選んだ。
ぎふ美術展賞を受賞した古田長利さんの「異空間」は、都市が圧搾された後、再び引きはがされたような混沌とした世界を感じさせた。灰色の塗料が恐竜の歯のようであるのも面白い。
優秀賞を受賞した平瀬ミキさんの映像作品「Translucent Objects」は、カラフルな積木を並べ、立てかけてゆく半透明な重層性が魅力である。同じく優秀賞の渡邉正康さんの「風の音色」は、穴を手で塞ぐと優しい笛の音色が鳴る仕掛けで、観客の参加を促す作品である。
奨励賞を受賞したナガオ・アツシゲさんの「一度きりの人生ですもの。夢のひとときを。」は、コンセントの複雑な交錯によって、人それぞれの生のあり様を視覚化し、同じく、奨励賞の古川愛望さんの「偶像崇拝」は、粗いタッチの画面に心の叫びが切実に投影されていた。

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