書道家でありアーティストの横山豊蘭氏をお迎えして、美濃和紙と墨による「滲み」について体感しながら、言葉を書で表現するワークショップを開催しました!
【開催概要】
◆日時 令和5年11月26日(日) 10:30~15:00
◆会場 江戸城下町の館 勝川家(恵那市岩村町)
◆講師 横山豊蘭氏(書道家・アーティスト・名古屋芸術大学非常勤講師)
◆参加者数 12名
◆内容 これまで2回、大書実技講座を、令和4年度に鴨長明の『方丈記』の一節を臨書して、それを参加者自身の手でTシャツにプリントし、そのTシャツを着て街に出るというワークショップの講師を務めていただいた横山豊蘭先生を講師にお迎えし、美濃和紙と墨とがもたらす「滲み」の趣きを体感し、言葉を書で表現するワークショップを開催しました。会場は、2018年4月から9月29日までNHKで放映された連続テレビ小説「半分、青い」並びに2023年5月に公開された映画「銀河鉄道の父」のドラマロケ地で「女城主の里いわむら」と称されている岐阜県恵那市岩村町にある「江戸城下町の館 勝川家」。恵那市有形指定文化財に指定されている江戸後期から現存する伝統的な建物で2階建ての建物2つが渡り廊下でつながっています。敷地内には蔵もあり、江戸時代の面影が残った建物で、プログラム会場は中庭にある建物の1階、日本庭園に面し、静寂と和の雰囲気漂う場所です。
26日(日)のワークショップに合わせ、この建物の展示をしている場所を一時的にお借りして、今回のプログラムの参考となる横山先生の作品を4点展示し、一般公開(無料)しました。
26日(日)は会場の勝川家を岩村町観光協会の方に案内していただきました。2つの建物を繋ぐ渡り廊下は二条城にもある鴬張りの廊下であり、その廊下や建物の瓦など岩村城が明治維新の「廃城令」で取り壊される際の落札によるものであることの説明がありました。案内の最後には講師の方より展示してある作品について解説していただき、実物観覧により、今回のテーマの一つ「滲み」がもたらす書についてのイメージを持っていただくことができました。
会場の部屋へ戻り、まずは今回のテーマに関して、書は字を書けば終わりというイメージが強いが、ものすごく豊かな分野であること、画像生成AIと作家のアイデンティティに関する一考察として、AIに入れる言葉によって、出てくる結果・物・良し悪しが変わってくることになっている現象が、「言葉」といういわば根幹に戻っているのではないかと感じさせる事象であることの興味深さなどに言及があり、また、俳句には季語があり、季節の移り変わりの機微を感じ取って句にしていることを例えとし、「言葉」は古よりコミュニケーションの基ではあるものの、言葉だけでなくその周辺のものが心を動かす、作家はこれからそういった感性が根幹となるのではないかとの所見を述べられ、今回の講座では、文字を書く、言葉を紡ぐだけでなくその背景にあるものを感じ取れるような体験をしていただきたいと、お話がありました。
その後、現在は文章を書くことはパソコンやスマートフォンにとって代わられているが、従来、文字を表すには「道具」が必要で、その道具は「文房四宝」と表され「筆、紙、硯、墨」のことであること、その各々が非常に多様であり、組み合わせによって様々な表現ができること、「墨」と「墨汁」は異なるもので、「墨汁」では表すことができない「墨」の感覚を体感していただきたいことなど今回の講座に関する説明があり、その後、まず「筆」に関して、実物を手に取りながら解説され、茶色の毛は硬め、白色は柔らかめ、短鋒・中鋒・長峰、和筆・唐筆の種類、筆のおろし方などについての解説と、文字を書くことに使わない「白鳥」や「鶏」の毛によってつくられた筆や今回使用する「竹」の筆などを受講者の方へ順次回され、受講者の方々は普段手にすることがない様々な筆を、毛先に触れるなどして体感していました。次に「紙(和紙)」について、美濃和紙の制作過程の一部を映像により、手漉きの紙を顕微鏡で観察した画像により「紙の繊維」について説明があり、墨の粒が繊維の隙間を墨が通っていくことで「滲み」ができる、「墨」は「すす」(松煙木、油煙木など)と「にかわ」の練り合わせでできており、松煙木の方が粒子が粗いことも画像で説明があり、「墨・紙・硯の3つが良ければ良い色が出るとは限らない、組合せが重要で、書家の方々は様々な組み合わせを試し、そうした過程を経て良い作品を制作している。」「書は、実際書いてみるとより楽しめ、書くことをすることで、筆の使い方・墨色・かすれなどについても思いを馳せれるようになり、そうした点なども展覧会で楽しんでいただきたい。」と述べられました。次に硯についての説明があり、中国四大名硯といわれる「端渓(たんけい)硯」「歙州(きゅうじゅう)硯」「洮河緑石(とうがりょくせき)硯」「澄泥(ちょうでい)硯」の特徴などと、「硯」を鑑賞する「洗硯会」というものがあったこと、硯の良さは触ってみないと分からないため、硯の業者の方は指紋がないことなどのお話があり、今回講師の所持品「端渓(たんけい)硯」6種類について、参加者に触れていただき良いものからランク付けを行うクイズも実施されました。
昼食休憩後、使用する墨に関して説明がありました。墨はまず「濃く」すること、濃くするのは粒子を細かくすることとなり、それを薄くして淡墨として使うのは繊維が水の中に浮遊している状況になるため、滲みが上手くいくからであることの説明がありました。また、濃く磨った墨が乾いてしまっても、水でほぐして使えること、乾く前の墨と乾いた後、水でほぐした墨では違いがでることなども説明がありました。
次に、今回実際に使用する紙・和紙について、楮(こうぞ)・三椏(みつまた)などを使い製作されていること、紙を重ねた二層紙などがあることの説明があり、紙の種類によって色・滲みの違いを体感してもらう段階へと進みます。筆は、まず、水に浸し、その後1回分の水として白い絵皿に水をぬぐい取ります。その後、ぬぐい取った筆の先に濃い墨を少し付け、絵皿の水に混ぜ、淡墨とします。次に講師が準備した和紙(余分な水分を除くため暫く寝かしてあったもの)の半紙に、絵皿に混ぜた淡墨を置くような感じで、「点」をいくつか様々な大きさで書き、滲んでいく様子を体験します。「点」の次は、横線・縦線を書き、クロスさせることや、先に書いた「点」の上に線を書くことも行いました。これは、濡れている間に重ねて書くことで、後から書いたものが下に入っていくことを実際体験してもらうためのとのことで、参加者はいろいろな線・「点」を書き、他の紙や墨も使って、試して滲み方の違いを実感していました。ただし、一旦乾いた後に重ねる場合は、後に書いたものが上に載るとのことです。桜の花びらなどもこの滲みで描かれていることの解説もありました。
「点」や線による滲みを体験した後、実際に墨と滲みを体感する水墨画を書きます。講師から、水墨画には四君子というものがあり、それは四つの題材「蘭・竹・菊・梅」であること、、蘭の曲線、竹の直線、菊・梅は曲線と直線の組み合わせであること、「春夏秋冬」のものであることなどの説明がありました。今回はその中の「竹」を書きます。最初は講師から手本をみせていただきます。竹の「幹(竹稈)」が最初となります。淡墨を作り、一旦筆に含ませた後、先半分の部分の淡墨は絵皿の端を使って取り、その先半分の先端部分に濃い墨を2回ほどもみ込み、下から書き始めます。紙を少しはみ出したところからスタートさせ、中に押し込み「節」となる部分で筆を止め、横方向に押し込むことで「節」を表現、これを数回繰り返し(ただし、上の方にいくほど間隔を長くする)、最後の時はやはり紙をはみ出します。節の次は「葉」を書きます。筆に墨をつける方法は同じで、「かいじ」で4つの葉を書き、同じ規格でもう一組を書きます。その後は水だけを含ませ、同じ形(4つの葉の形)で、重ねるように書きます。水だけですが、筆に残っている墨や、絵の重なる部分から先に書いた墨が滲んでくるので、薄い葉が書きあがります。葉の次は、節の箇所から葉に向かって枝を書きます。筆に墨をつける方法は同じで、筆は立てます。枝が書き終わったら細い筆を用い、濃い墨で節の箇所を「一」を書く感じで書き、できあがりとなります。
講師の方による見本をみた後、参加者が制作に入ります。講師が持参された「端渓(たんけい)硯」などの硯で墨を磨ることから始める方もみえました。講師からは「まだ別の世界があることがわかるようにすることを表すため、上の部分をはみ出すように」との助言があったり、竹以外の墨絵の参考となればと、持参されたぶどうの墨絵作品を観覧に供するなどしていただきました。
墨絵の後は、参加者自身が作った(る)詩又は参加者の好きな作家の詩、好きな言葉、講師が参考にと持参された言葉から選ぶなどにより、文字を書きます、どんな書体でもよく、また上手い、下手関係なく、好きなように書いていきます。軍鶏の筆と竹の筆を貸していただけ、墨の濃淡、かすれや、太い細いなどを組み合わせると趣きが出る、直筆、側筆、逆筆、同筆など書き方も組み合わせるなどして、お遊び的で結構、楽しんで書いてほしいと、書の楽しみも経験して頂く配慮もあり、参加者は楽しみながら好きな絵、文字を書いていました。文字は、絵とは別の半紙に書いて、最後は鋏で切って組み合わせます。
文字を書き終わった後、準備された新しい和紙に、文字を入れる場所を考えて、好きな水墨画を、滲み、墨の色・濃淡、筆の使い方を工夫しながら書きます。絵が完成した後、文字を貼り、参加者各々好きな絵・文字による作品が完成しました。
◆参加者の声 「書を習う機会がなく、大変ありがたかったです。」「硯に触れさせていただき貴重な体験をさせてもらいました。」「楽しかったです。ありがとうございました。」「素敵な場所で楽しかったです。」「日常では体験できないことを体験できて新鮮でした。」など、得難い体験ができた講座となりました。