月刊誌『美術の窓』(生活の友社)において「作家行路」を連載中で佐藤美術館学芸部長の立島惠氏によるアートに係るお悩み相談会&作品講評会を開催しました!
【開催概要】
◆日時 令和5年10月21日(土) 13:00~17:00
◆会場 飛騨高山まちの博物館(高山市上一之町75)
◆講師 立島 惠氏(佐藤美術館学芸部長)
<ゲスト講師> 長谷川 喜久氏(日本画家・名古屋芸術大学教授) 、 福本 百恵氏(日本画家・名古屋芸術大学非常勤講師)
◆参加者数 8名
◆内容 毎年大好評の本プログラムを、飛騨高山まちの博物館で開催しました。講座の開催に先立ち、博物館職員の案内で館内展示を観覧しました。博物館の展示室は江戸時代の豪商、矢嶋家と永田家の土蔵を活用しています。現在の高山市の礎を築いた金森氏の時代から江戸幕府時代の直轄地時代における街の変遷、高山祭りに使われる「屋台」や伝統工芸品(飛騨春慶、一位一刀彫他)などが解説展示されており、高山市の歴史・文化について考察できました。
プログラムは、参加者お一人お一人から「自己紹介」と相談を受け、講師から回答をし、相談後は講師が参加者が持参若しくはポートフォリオにより作品を観、講評並びにアドバイスを行う内容です。また、前回と同じく、相談者以外に見学のみの方もご参加いただけるようにしました。
博物館内を観覧後、今回6名の参加者が順次相談内容を発言して、講師からアドバイスをいただく形で始まりました。
最初は今回の相談会への参加が2回目となる第4回ぎふ美術展に出展し入選した経験をお持ちの参加者から「入選したことをきっかけに画廊の方からお声がけをいただき、個展を開くようになった。来場者の方への応対が作品制作の想いではなく、セールストークに切り替わったような気がしている。」というお悩みに、立島講師からは、「描きたいものを描くことと認められるために書くことは相反するように感じられるが、最初の情熱を持ち描き続けていくことが肝要。そうした中での会話には作り手の言葉の重みがある。会話の中から種をひろうことも大事。作品制作過程などについて、わからないことはわからない。後から考えれば・・・・といった会話でもよいと思います。」とのアドバイスが、長谷川講師からは「会話の中に「嘘」があってはいけない。説明できないものがあってもよい。会話の中から自分が気づくこともあります。」とアドバイスがありました。
ある展覧会に入選した方で、卒業してから惰性的な感じで描いてきていたが、子育てが一段落し、真剣に描いているとの方からは、「入選した時の展覧会を観に行ったところ、若い方の作品と作風が全く違っていて、自身の作風が卒業時と変わっていないことが気になったので、変化の転機を教えていただきたい。」との相談には、長谷川講師から「自身は若い頃は人物、40歳頃から花鳥、40代後半から風景を対象とするようになってきた。これは、人物の場合はモデル象を考えること、脳内イメージからスタートとなるが、年齢によって変化し、出会う力、受け止める力、待つ力が欲しいと思うようになってきたのが花鳥動物などを自然に受け入れられるようになったので、モチーフが変わり、そういったことを続けていくと現場に出会うことが始まり、この頃は、自分を白紙として、受けたものに対してどう表現できるかがスタートとなっています。年齢的な影響もあると思われます。ご自身も、周りの環境に対して自分をもっと開いていくとモチーフも変わってくると思います。絵画を独立したジャンルとして捉えてしまうと一本道になってしまうので、環境やモノを自分自身と直結して捉えようにすることで、モノの見え方が変わってくるのではないかと思います。絵を描くという以前に自分がどのような場にあるか、何に対して興味があるかに主軸を置き、作品展開を考えるのもよいと思います。」と自らの体験をもとに回答され、立島講師からは「趣くまま描きたいものを描く。それが個性であり、描く必然性と言える。描く必然性がないと、観る方もつまらない。上手い絵はいくらでもあるが、良し悪しにはつながらない。」と、福本講師からは「今の学生たちは20年前のものを斬新と感じて、取り入れたりしている。ご自身も新しいと思うモチーフや作風を真似ではなく、エッセンスとして取り入れていくのがいいとも思います。」などの回答がありました。
グラフィックデザイン科を専攻して美術大学を卒業後、「いろいろなところへ就職したのですが、本来やりたいことが「ファインアート」で、それをやる決意をしたものの、何をどうしてよいか全くわからず、誰に相談してよいかもわからなかった。SNSでの発信の仕方はわかっているので、それ以外の方法を教えていただきたい。例えば「ギャラリーでの展示」は思いつくが、実際どのようにやるのかなどわからない。」との相談には「成功した人のやり方を同じようにやってみても、ご自身が成功するとは限らない。30年前とかは、ある程度の道筋があったが、今は様々な方法があるので、どの方法かは考えていかなければなりません。木下千春という作家ですが、この方は武蔵野美術大学空間演出デザイン学部を卒業し、一旦社会に出た後、東京藝術大学院で文化財保存日本画を先行かれた方でして、今(2023年10月21日現在)佐藤美術館で展覧会を、回顧展として行っており、過去の作品から現在までの作品が見られる展示をしています。作品の変遷が見られるので、参考になると思います。ぜひご自身でそれを見て、その後美術館で相談しましょう。」と、相談者の状況に応じた回答が立島講師からありました。
高校の時に美術部に入ったのをきっかけにして、絵を描き続けているという参加者から、自分のあり方を考えた時に表現したいものがあらわれてきて、来年3月にグループ展を開くときに、現在は作品の多くが自画像など自分を中心としたものなので、見に来られた方をどれくらい意識し、見る人に伝わる工夫とかを伺えればとのご相談に対して、立島講師からは、「作品は一人称。描きたいものを描くのが基本。表現の工夫は必要。作品に対する様々な意見などはあるが、その意見に対して責任を持たない意見を言う人も多く、そうした意見を気にする必要はない。自分の本当に好きなものを多面的に見て、自身のアイデンティティへどう反映させるかなどの工夫は必要で、描くという情熱が入っていることで絵に面白みがでてきます。」とのお話が、長谷川講師からは「自画像ばかり描いている作家もいる。その人の作品を見ると、作品を通して精神世界の内面が見せつけられているような気がします。自分を描くことで何かほかのものを表現する、自分を通じて何を出したいかが見えるようにしていくことが重要です。」とのお話が、福本講師からは、「過去に自画像とご家族と自分の使った物だけを描いている方の個展を見た時、非常に面白く感じた。それは、家族の細やかな表情などが愛着を持って描かれていたことが背景にあるからだと感じた。その方は、ずっとその思いを基礎として描き続けており、そういった姿勢が大事だと感じました。」とのお話があり、参加者の状況に応じた具体的な回答がありました。
オンラインアートギャラリーを運営しているという参加者から「オンラインアートギャラリーが増え続けていくのを感じており、今度どのような展開になるのかが気になっている。そのような中で生き残っていく方法を教えていただきたい。今の自分のギャラリーの運営の基本方針は、自分の好きなアーティストを対象としていきたいと思っているが、これからもその方針でよいのかもお尋ねしたい。」との相談に対して、立島講師から、「どのギャラリーでも基本は「観る眼」いわゆる「目利き」です。売れる作家をキャッチする「目利き」の力の有無が大事です。」と回答され、同席していただいている「美術の窓」担当者の方から「web上と実際に見るのでは、見え方が違ってきます。そこのフォローが大事なのですが、一人で補うには限度があると思われます。」とのアドバイスがありました。加えて、「現段階では、ご自身で補えない部分を助けてくれる人と組んでやっていくのが普遍的な形と思います。」と立島講師から回答がされました。
ひととおり参加者からのお悩み相談が終わった後、立島講師より、自らが作られたスライドで池田学氏・前原冬樹氏・長谷川講師・福本講師・その他数名の方の作品を紹介しながら、作品が売れるまでの期間や「描きたいものを描く姿勢をずっと続けている」「苦しかった時をばねにしている。」など、参加者全員へアドバイスがありました。
その後、講師の方が参加者が持参された作品を見て回り、良い点やよりよくするための工夫する方法・方向性などをアドバイス等され、参加者はその場で質問などをされていました。
◆参加者の声
「いろいろな見方や考え方が参考になりました」「悩みが解決して、自分の表現を見つめなおすことができました。」「目から鱗がおちました」と、前回と同様、参加者それぞれのお話をじっくり聞いていただいたうえで、夢と希望を与えていただいた貴重なプログラムとなりました。