月刊誌『美術の窓』(生活の友社)において「作家行路」を連載中で「第4回ぎふ美術展」自由表現部門の審査員を務めていただいた立島惠氏によるアートに係るお悩み相談会を開催しました!
【開催概要】
◆日時 令和4年12月4日(日) 13:00~16:45
◆会場 大垣市守屋多々志美術館(大垣市郭町2-12)
◆講師 立島 惠氏(佐藤美術館学芸部長)
<ゲスト講師> 長谷川 喜久氏(日本画家・名古屋芸術大学教授)
◆参加者数 16名
◆内容 毎年大好評の本プログラムを、大垣市守屋多々志美術館で開催しました。講座の開催に先立ち、同美術館学芸員牧岡さつき氏の案内で企画展「愛そして祈り」を鑑賞しました。戦中を生き抜いた守屋多々志が平和への願いを込め、親子の情愛、人間愛をモチーフに描いた『若き聖徳太子』『赤穂の灯(浅野内匠頭の妻)』『ある日の武蔵』などの作品を鑑賞しました。
午後からの相談会では、今年からはお悩み相談に加え制作した実作を持参いただき、公開講評の形で講師にアドバイスしてもらうというプログラムになります。また、相談者以外に見学のみの方もご参加いただけるようにしました。9名の参加者が順次発言して講師からアドバイスをいただく形式で始まりました。
美大を卒業して10年がたち30代となった参加者からの「名古屋のギャラリーでの個展開催以上に活動の場が広がらず、これまでガムシャラに描いてきたが、30代となりこれで良いのか?どう頑張ればよいのか不安になってきた」というお悩みには、「ガムシャラが大事。同年代の作家が入賞したりすると焦ってしまうが人生は長いので焦らなくてよい。平均寿命の80代に芸術家としてのピークを持っていくような設計が出来れば最高。そう思えば気が楽になる」との慰めの言葉とともに、「表現とは自分を見つめることと自分以外の世界を見つめること。それがちゃんと出来ていれば自ずと作品に説得力が生まれてくる。作品の魅力とは、自分をどれだけ素直に表現できるか、技巧的に超絶かのいずれか。どちらを選択するのか決めて日々精進することに尽きる」との講師のアドバイスがありました。
また、娘が東京の音楽大学に入学したのをきっかけに8年前に絵を描き始め、今夏開催の「第4回ぎふ美術展」自由表現部門に入選した参加者からの「審査員のアドバイスもあり、次回、日本画部門に応募するにあたり、日本画材と樹脂の併用による耐久性や発色に不安を抱いている」との相談には、現在佐藤美術館で企画展を開催中の日本画家財田翔悟の作品を引き合いに「彼はアクリルも膠も油絵の顔料も岩も混ぜて、漆を下地にして研ぎ出し技法も使っている。表面をエアブラシでザラザラの絵具を塗ったり、硫酸カルシウムで盛り上げたりもする」と最近の日本画家でも使われている技法を紹介。また、法隆寺金堂壁画修復事業に携わり模写する中、古色を帯びた独特のマチエールをが必要だとの思いからいわゆる“吉田様式”といわれる絵肌を作り出した日本画家吉田善彦の絵をスライドで紹介しつつ、「日本画でも絵肌は大事なので、こうした方法が採用できる」とアドバイスされました。スペシャルゲストとして、日本画家の長谷川喜久氏にもご参加いただき、表現者の立場から、「先程から作品を拝見していて日本画でも良いと強く思った。アクリル絵具の樹脂系での定着は日本画でも既に江戸時代から天然樹脂で行われている。今使っている画材でも使い方を間違わなければ混合技法でも百年単位で持つ。独特の宗教観がある画風ですごく惹かれる。素材感に自分を預ける、表現とか資材に重要性を持たせて大切に制作を進めていけば、今の延長線上に答えが出そうなので日本画でも面白い」とのアドバイスがありました。
同じく今夏の「第4回ぎふ美術展」自由表現部門で奨励賞を受賞した参加者の「作品の完成のタイミングが分からず、気が付くとやり過ぎてしまうことが多く終着点が分からない」というお悩みには、「そうした制作アプローチもあるし、行き当たりばったりが決して悪い訳ではない。意外と完成度はあるし、これで気持ちがいいのならこれで行くとよい」とのアドバイスがありました。また、表現者の立場として長谷川氏からは「作品としての成り立ちがしっかりしている。純粋美術の範囲内。純粋美術に関しては“抜け感”とか“ゆとり”とか鑑賞者の気持ちが入る場所があった方が、見る側も共鳴・共感する。絵としての“キズ”や“重い感じ”が画面に残っていると惹かれるものが多く、作品としての強度が強い。これで進めていけばよい」と現状へのお墨付きをいただきました。
参加者からのお悩み相談が終わった後、参加者同士でお互いの作品を見せ合ったりして交流する方や、持参したポートフォリオや作品を講師の先生に観てもらい相談に乗ってもらう方もありました。
◆参加者の声 「新しい視点や可能性を提示いただけた」「とても勉強になりました。ありがとうございました」「それぞれの立場でのお悩みも伝わってきて、先生方の真摯なご解答が素晴らしいなあと思いました」と、参加者それぞれのお話をじっくり聞いていただいたうえで、夢と希望を与えていただいた貴重なプログラムとなりました。